TW4の伊瀬・聡一朗(d00485)、それと背後が呟くところ。
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終の夢と、その終わりに。
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景色は只々どこまでも白く、
天も地もなく、影もなく、
柔らかくなく固くなく、
風吹くことも、香ることもなく、
声を出すことも、響くこともなく、そも伸べる手も、足もなく。
それでその時やっと俺は、「失ったことに気が付いた」。
きっともう、ないんだ。知覚するために与えられたものが。
(……あぁ、そっか。これが死んだってこと……なの…か?)
不意に落ちてきた得心は、まるで「言い聞かせるかのように」すべてを治めようとしたが、
しかし何故それに「思い当たるのか」という焦燥が、確信に凍てる前に、それを踏み砕く。
見つけた冷たい到達点は、ただの薄氷だったかのように、淡く消えていった。
おかしいだろう。何で、何かを、考えている?
状況が知れないと消えられないだなんて、そこまで諦め悪く生きてきた覚えもない。
(――まさか、死に損ねた?)
この世界には「確たる死ではないものが在る」ということを、だいぶ前に知っていた。
子供心に、それがずっと怖かった。追われる身ならば尚更に。
いつ失うともしれないと識って、それでも大事にしてくれた人達には、深く傷を残す。
避けられないならせめて、幻の欠片すら残さないように消えて、
経る時と共に癒えるように忘れて欲しいと、
ささやかに、カミサマに、(それが無慈悲だと解っていても)、願っていたのに、
(ダメだ、それだけは絶対に、――父さん、)
背を捜そうとして、ぎくりと震える。……そうだ、父は、何処へいった?
さっきまで一緒に居たはずで、買い物なんかしてたはずで、
帰り道を駆けることになり、俺はそれから、どうしたのだっけ、
焦燥は風を巻き起こし、別の確信へと変わる。
一緒にいたはずだ。灯りひとつない闇のなかを駆けていた、
(暗かった、あんなに暗かったはずだ、じゃあここは、ここは一体何処なんだ!!)
『 聡一朗!!! 』
――――バン!!!!
強い衝撃と共に、引き戻される。
色水を流し込んだかのように世界が色を取り戻し、瞬く間に染まっていく、「闇」に。
頬に、ぽたりと水滴が落ちた。雨音ではなく嗚咽が、掠れ乍らに降っていた。
あれほど白の世界で藻掻いた筈の頭は、
突然取り戻した現実に戸惑ったのか、なかなか働こうとしない。
すぐ目の前に顔があると気付くまで、少しだけ時間が掛かった。
ひどく、腹が、熱をもって痛み、周囲には夥しい臭気が漂っている。
何度も名前ばかり呼ばれるものだから、返事をしないとならないんだと、思った。
でも声が出ないので、震える白い手に握られていた右手で、そっと握り返す。
「……あぁ、……よかった…聡一朗、だいじょうぶ、もうだいじょうぶだから」
――なにも大丈夫じゃないんだと、それだけで解った。
やっと白から抜け出したのに、目の前が真っ暗になった気がした。
気丈な叔母の泣き顔がささやかな安堵と耐え難い痛みに歪みながら、
それでも俺のために必死に笑おうとしている、その時ばかりは。
……いや、「よかった」のかもしれない。
俺まで消えたらこの人の心が、助からなかったのかも、しれない。
遠回りな安堵で己を慰める自分のことを心底歪だと思い、
それでもそれを、許そうと思った。
現にまだ、生きなければならないから。せめても歩けるまでは、杖をつかないと生きていけないから。
これまでを幸せに生きてきたし、この先を幸せに生きていくとしても、
今日の日の不幸が、綺麗に「なかったことになる」なんて事は、あり得ないんだ。
それが「傷」で、この痛みなのか。……なら俺の願い事を前に、カミサマも困ったことだろう。
いつ失うともしれないと識って、それでも大事にしてくれた人達には、深く傷を残す。
「だから想いを残すな」と、誰が弁じたのだったっけ。
そうして喪失の傷を負ったのは、父の妹である叔母と、そして息子であった俺。
中学2年生の晩夏、
蝉時雨が消えるほど寒い雨の日のことだった。
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